XFEL(SACLA)計画とは
自然現象や生命活動の根源を探ると、その多くは原子や分子の並びかたや動き、そしてそれらの集まりの中での電子の動きまでさかのぼります。原子や分子の配列と動きや、電子の動きを直接観察できれば、難病の原因解明と薬の創出、地球環境を悪化させる物質の抑制方法の確立など、私たちの生活の向上に大きく役立つと期待されています。
1895年にレントゲンによって発見されたX線は、病院での診断でおなじみですが、可視光に比べとても波長が短い光で、原子や分子のレベルで物質の微細構造を観察するのに利用されてきました。 SPring-8(
Super
Photon
Ring -
8 GeV)は世界で最も強いX線光源ですが、それでも原子や分子の瞬間的な動きを観察するためには強度が足りません。
非常に強い光を出す光源としてレーザーがあります。X線レーザーができれば、原子や分子の瞬間的な動きを観察することができます。レーザーは位相の揃ったコヒーレントな光(光波の山と山、谷と谷が揃うこと)を発生し、様々な光技術に応用されていますが、従来のレーザー技術の延長で波長の短いX線レーザーを作ることは不可能でした。
X線でのレーザーを作る方式として、従来の物質中での発光現象を使う方式ではなく、電子を高エネルギー加速器の中で制御して運動させ、それから出る光を利用する方式が提案されました。原子からはぎ取られた自由な電子を用いてX線レーザーを作ることから、X線自由電子レーザー(
X-ray
Free
Electron
Laser : XFEL)と呼ばれます。このXFELによって、原子や分子の瞬間的な動きを観察することが可能となるのです。
こうして、XFELが実現
高エネルギー電子をたくさんの磁石を並べた「アンジュレータ(Undulator)」の中を通すと、光が発生します。これにより、テラヘルツから赤外・可視さらにX線までの広い波長域の光が得られます。電子のエネルギーがとても高く、アンジュレータの磁石周期が短いとこの光はX線になります。これは、実はSPring-8でも使われているX線発生方法です。SPring-8では、たくさんの電子がばらばらにアンジュレータの中を通過するので、出てくる光はコヒーレント(coherent)にはなりません。
アンジュレータの両端に共振反射鏡を置いて、アンジュレータから出す光の波長間隔に並んでアンジュレータを通過する場合には、電子の出す波がコヒーレントになり、赤外線や可視光のような波長の長い光を出す自由電子レーザーが完成します。
しかしながら、短波長のX線では、反射率の高い鏡が存在しないので共振器を作ることはできません。共振器内で多数回光を往復させて電子との相互作用を強めていくのに代えて、非常に長いアンジュレータに電子の塊を通して、後ろの電子から出る光と前の電子との相互作用によって電子を波長間隔に並べ、コヒーレントなX線を発生させる自己増幅自発放射(
Self-
Amplified
Spontaneous
Emission : SASE)機構が、1980年代に提案されたことによって、XFELの実現可能性が出てきたのです。
現在、世界中で計画されているXFEL施設はすべて、このSASE機構に基づくものですが、この機構でXFELを実現するためには、超高品質の電子ビームを作る技術や、高精密電子制御技術が要求されます。日本の技術の粋を結集することによって、このような新技術を作り上げ、完成したのがSACLA(
SPring-8
Angstrom
Compact Free Electron
Laser)なのです。
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SCSS
「SPring-8 Compact SASE Source」の略で、全長はSACLA実機のおよそ12分の1(約60メートル)です。SACLAに先立って建造されました。手前にある電子銃で電子を発生させ、奥に向かって加速し、その先にあるアンジュレータでレーザーを発生させます。電子のエネルギーはSACLA実機の32分の1(2.5億電子ボルト)ですが、主な装置の基本要素は実機と同じです。SCSS試験加速器が安定に稼働したことにより、SACLA実機の基本設計の正しさが実証されました。 さらに、SCSS試験加速器が発生するレーザーを用いて、 XFELを利用するための準備が進みました。
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