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新規XFELビームライン BL2の整備状況について



独立行政法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター (RSC) は、 SACLA利用の一層の拡充を図るために、 2013年度に新たなXFELビームライン (BL2) の整備を進め、 2014年10月から精密調整を開始しました。 2015年3月から共用に供する予定です。

【概要】
理化学研究所は、 公益財団法人高輝度光科学研究センターと共同で、 2006年度から2010年度にかけてX線自由電子レーザー施設SACLAを整備し、 2012年3月より、 XFELビームライン (BL3) と広帯域自発放射ビームライン(BL1) の2本のビームラインについて、 共用運転を行ってきました。 BL3では世界最短波長のXFEL光が安定に供給され、 最近では数々の目覚ましい成果が報告されるようになりました (http://xfel.riken.jp/research/index01.html)。 一方で、 現在世界で稼働しているXFELビームラインは、 SACLA BL3と米国LCLSの2本のみであり、 ビームタイムの不足が世界共通の課題と認識されています。 国内の学術・産業界の利用者や研究者の方々からも、 利用機会の拡大について強く要望されていました。 この問題に応えながらSACLAの国際競争力を高めるために、 RSCは、 2013年度に、 BL3に続く2本目のXFELビームライン BL2の整備を行い、 2014年10月から精密調整を開始しました。 BL2は、 2015年3月から共用に供される予定です。 また、 既設のBL3についても実験ステーションの高度化を行いました。

【BL2の狙い】
これまで、 BL3では、 SACLA唯一のXFELビームラインとして、 生命科学、 物質科学から極限状態の科学まで、 幅広い分野の利用研究が展開されてきました。 多様なトライアルがなされてきた一方で、 実験ごとにシステムを組み替える必要があることから、 実験の効率には制約がありました。 今回新たに整備されたBL2では、 BL3で開発されたいくつかの実験プラットフォームを長期間設置しながら、 ライフサイエンスを軸とした利用実験を、 高い効率で実施します。 2014度から本格運用を開始するミニ京コンピュータも活用しながら (http://xfel.riken.jp/topics/20141006.html)、 多様な試料の分析を大量かつ迅速に行うとともに、 実験装置のプラットフォーム化によってSACLA利用実験の敷居を下げ、 広く産業界のSACLA活用も推進します。

【BL2実験ステーション (利用者向け)】
BL2は、 実験ステーションとしてEH3及びEH4bを有します。 実験装置本体はEH3に設置され、 必要に応じて、 EH4cに小角領域のX線信号を計測するための検出器を配置することが想定されています (Fig. 1)。 EH3には、 1ミクロン集光装置が常設されています。 この装置は、 BL3でこれまで用いられていた1ミクロン集光装置 (大阪大学山内和人教授の研究グループとの共同開発、 H. Yumoto et al., "Focusing of X-ray free-electron laser pulses with reflective optics", Nature Photonics, 7, 43-47 (2013)) をさらに安定化し、 かつ有効開口を拡げて高強度のXFELを利用可能とするものです。 また、 BL3と同様に、 ポンプ・プローブ計測のためのフェムト秒光学レーザーも導入されています。 但し、 BL3で整備が行われているフェムト秒アライバルタイミング計測システム (次項参照) は、 BL2では当面導入されません。 500フェムト秒以下の高い時間分解能が必要な実験には、 BL3をご利用下さい。 BL2において主な対象となる実験手法、 及びこれまでの関連成果は下記の通りです。

コヒーレント回折イメージング (CDI, Coherent Diffractive Imaging)
       R. Xu et al., "Single-shot three-dimensional structure determination of nanocrystals with femtosecond X-ray free-electron laser pulses ", Nature Commun. 5, 4061 (2014).
       M. G.-Jones et al., "Macromolecular structures probed by combining single-shot free-electron laser diffraction with synchrotron coherent X-ray imaging ", Nature Commun. 5, 3798 (2014).
       C. Song et al., "Multiple application X-ray imaging chamber for single-shot diffraction experiments with femtosecond X-ray laser pulses ", J. Appl. Cryst. 47, 188-197 (2014).
       T. Kimura et al., "Imaging live cell in micro-liquid enclosure by X-ray laser diffraction ", Nature Commun. 5, doi:10.1038/ncomms4052 (2014).
       Y. Takahashi et al., "Coherent Diffraction Imaging Analysis of Shape-Controlled Nanoparticles with Focused Hard X-ray Free-Electron Laser Pulses ", Nano Letters 13, 6028 (2013).
       M. Nakasako, et al., "KOTOBUKI-1 apparatus for cryogenic coherent X-ray diffraction imaging", Rev. Sci. Instrum. 84, 093705 (2013).

シリアルフェムト秒結晶構造解析 (SFX, Serial Femtosecond Crystallography)

固定ターゲットタンパク質結晶構造解析 (FPX, Fixed-target Protein Crystallography)
       K. Hirata et al, "Determination of damage-free crystal structure of an X-ray-sensitive protein using an XFEL ", Nature Methods 11, 734-736 (2014).


【BL3実験ステーション (利用者向け)】
既存のXFELビームラインBL3についても、 さらに精密な実験を行うために、 2014年夏季停止期間を利用して実験ステーションの高度化が行われました。 まず、 1ミクロン集光装置は、 BL2と同様な安定化・高開口化を施した上で、 EH3からEH4cに移設されました。 また、 100フェムト秒以下の高い時間分解能でポンププローブ実験を行うために、 フェムト秒アライバルタイミング計測装置がEH1に常設されました。 さらに、 EH2にアクセスモードが新設され、下流のハッチが実験中でも実験準備が可能となりました。 尚、 EH3はBL2専用の実験ステーションとなりました。

【今後の展望】
10月から、 BL2の精密調整を開始しました。 進捗状況については、 ホームページ上で随時ご報告します。
BL2は、 2015年3月に共用を開始する予定です。その後当面の間は、 BL2とBL3のビームラインの切り替えは、アンジュレータ上流部の振り分け電磁石によって、 電子ビームのルートを静的に切り替えることにより行われます。 一方のビームラインで実験準備をしている間にも他方で実験が可能となるため、 効率的な施設運用が可能となります。 さらに将来的には、 振り分け電磁石のパルス運転を行い、 SACLAの電子ビームを各ビームラインに動的に振り分けます。 SACLAは、 60 Hzで供給されるパルス毎に 電子ビームのエネルギーを変更することが可能であり、 動的パルス振り分けと組み合わせることにより、 単一の加速器で複数のビームラインを同時に利用することができる、 世界ではじめてのXFEL施設となります (T. Hara et al., "Time-interleaved multienergy acceleration for an x-ray free-electron laser facility", Phys. Rev. ST. Accel. Beams, 16, 080701 (2013)。 これにより、 実効的なビームタイムとSACLAの利用機会が飛躍的に向上し、 学術・産業の発展に一層貢献することが期待されます。


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Fig. 1 SACLAビームラインの鳥瞰図。 上: 2014年7月まで、 下: 2014年10月以降



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